生音楽
その日は夜の9時からNASの映画を見に行く事だけが決まっていた。
いつもダラダラと終わってしまう休日。
予定らしい予定が立つだけでテンション上がるのにナズの映画となればなおさら!
「有言実行」てことで早速支度をして駅まで光速でぶっ飛んでいく。
心斎橋。
大阪に韻踏合組合(いんふみあいくみあい)というヒップホップクルーがいる。
構成員のヒダディー氏はアメリカ村の中で一二三屋(ひふみや)なる服屋さんを展開している。
たまたまTwitter経由でお店のサイトを見てると"コレを探してた!"
って感じの帽子を発見、勢いで買いに行くことに決める。
大学生の頃からいつか行こうと思ってマゴマゴしてたからちょうど良い。
「有言実行」はテンションが高い内に何個も欲張った方が良い。
今の場所に移転する前から何度も入ろうとしてやめたものだ、と一人で感慨ぶかげ。
「押しボタンファン」がグッとくるエレベーターのボタンを押す。
雰囲気のある音を立てて扉が開き、3階に上がるとそこにはタトゥースタジオが。
中学生の頃からカジカジを読んでる身としては
コチラもお馴染みの「チョップスティックタトゥー」。
歯医者さんのようなタトゥーを彫る音が室内に響いている特殊な環境。
ドキドキしながら奥に進むとインストゥルメンタルトラックが流れている。
大きなスピーカーの近くに人が二人、話をしている。
違う・・話してるんじゃない!
店内でフリースタイルラップをしている!
一二三屋スタッフのビッグモーラさんが高校生ラッパーと高速でラップしていた!
いきなりの洗礼とも言える光景。
自分のやってるフリースタイルラップの真似事が、
真似事の域を出れない理由を肌で感じる。
彼らはジョジョで言うところのスタンドみたいに、何かを具現化しているようだった。
吐きそうなくらい気分が悪いのに、無理矢理テンションが上がってしまう瞬間だった。
ショックと一緒に脳内麻薬の多量分泌。
脳が感情の処理をできないくらい動揺、そして高揚している。
でもすぐリズムとラップに揺れ揺れで、気付けばビデオを撮りながら盛り上がっていた!
軽〜くお話をしてから、お目当ての帽子も無事にゲット。
帰ろうとすると彼らはまたフリースタイルを再開しようとしている。
脳「おいスモーク、おまえ帰るのか?」
「有言実行」が社訓のカーテンズ編集部構成員としては、
社訓その2「チャンスは逃さないでね」に基づき、踵を返し、腹を括って男を決める!
「あの、あの〜、ぼ、ぼろ、僕もちょっとだけ、やらせてもらっていいとぅすかぬぇー?」
噛みまくりで呼びかけると、流石日本語を操るプロフェッショナル達は
即座に私のつたない日本語を解読し「ここに来たまえ」と手招きをした。
必死過ぎて記憶がないけど、とにかくトラックが流れ出し、
ビッグモーラさんからラップを再開した。
ラップをしながら、彼らが完璧に曲のBPMを理解している事に気付いた。
メトロノームのような正確さで、歌詞の入る部分に必ず言葉が入っている。
それこそ、韻を踏むとか踏まないではない。
とにかくプロフェッショナルとして、この音楽が鳴ってる間は
言葉を絶やすことなく放り込んでいこうというような、
ある種の気概、ある種の密約が交わされている事に気付き、
その日何回目だろう?という衝撃に脳震盪を起こしそうになっていた。
お客さんに頼んで撮って頂きました!
楽しかった〜
脳汁が大量に溢れ出た帰り道、今からナズの映画を見に行くのが不思議だった。
どこに行こうとしてるんだろう。