-kemurikikaku-

ママチャリに乗った小っちゃいオッサンの日記

23

 

 「トゥエンティーサード?何それ」

「お前マジで?ジョーダン、トゥエンティーサード

f:id:kemurikikakuku:20140923224443j:plain

その日もたまり場だった大学の食堂でウータン・クラン鳥肌実を聞きながら、

ドロのように長机に突っ伏して、ひたすら煙草を吸っていた。

もう授業をいつから受けてないのか分からない。

考えたら怖いから考えない。

どの科目をどれくらいのペースで履修したかも覚えてない。

現実逃避に英語科の僕には関係のない美術科に行って

先生に頼んで絵を描かせてもらっていた。

この問題はどうでも良いことで、少なからずの不安だった。

 

全体を刈り上げた頭、ヤシの木みたいな頭頂部のゴムでくくった髪。

こけた頬からは黒澤映画の飢えた武士を感じる渋い男。

「どう?格好よくない?23」

 得意気に自慢してきたジンの言ってる事を泥の脳は半分しか理解出来なかった。

 

反応の薄い僕を見たジンは靴とタンクトップに施された

通称「ジャンプマン」を僕に見せてマイケル・ジョーダンの事だと教えてくれた。 

 

ジンはどこか自分を認めてくれてたような所があったから

少しばかりガッカリしたような顔をした事を覚えている。

シャイな男だったジンもこういう時はリアクションがオーバー。

シャイな人のおどけた一面を見るのは打ち解けた気がして心地良い。

 

 仲間内でジョーダンの事をトェンティーサードと呼ぶ感じが妙に気に入って

いつからか職場で仕込みに23日の日付けを貼るたびに

「トェンティーサード」と密かに呟く気持ち悪い奴が俺。

 

もうあれから10年くらい経つ。

 

5年くらい前、

風の噂で "ジンは戻れない所に行ってしまったかも" みたいな、

勿論これは比喩表現、ご想像におまかせする感じで、そんな話を誰からか聞いて

なんと言えばいいやらな感情と共に、久しぶりに会ってみたいという、

極めてフラットな、友達への親愛の情みたいなモノが胸をよぎった。

当然、噂を耳にした時からずっと、それ以前もジンには会っていない。

お互いに何をしてるかも知れないし、生きてるのかどうかも。

自分でも多感な時期だったと思う。

ほんの2年くらい過ごしただけなのに、

大学生の頃に出来た友達は学内学外関係なく、自分にとって、すごく重要だ。

 

大学は当時子供の自分が思ってるような所ではなかったけど、

魅力的な人間が沢山居たのをよく覚えている。

しばらく会っていない、会いたい人が数人いる。

会いたいけど会えない、会い方がわからない。

そんな距離感を含め、毎月23日が彼らの命日のように思いを馳せる自分がいる。