深い業
山本握微さんの演劇を見に行こうとして遅刻。
演劇はさすがに途中入場できず、此花区から引き返す。
2回公演だったので次の日、ギリギリの時間に地元駅に到着。
よかった〜と安心、乗車券売機前で財布を忘れた事に気がつく。
お疲れ様でした。
夜は同じ此花区にある「黒目画廊」という場所で詩の朗読のイベントに行く予定だったので、気を取り直して場所と時間を確認する。
よくよく見ると去年のイベントだった。
あまりのマヌケぶりに結構なダメージを食らう。
帰宅。
さて、どうしてくれよう。
馬鹿の予定に大きめの空白。
半泣き全イジケでグズグズTwitterを覗くと、名古屋からラッパーの呂布カルマさんが来ていることを知る。
もうこれしかないと家を出て、何も考えずに電車に乗り込んだ。
大阪に何十年も住んでいるけど、初めて聞いた「緑橋」という駅へ。
ライブ会場のサイトには「駅から徒歩0分の立地」とある。
一体どんな所にあるのか、改札を出て番号で振り分けられた沢山ある地上への出口を山勘で登ると、階段踊り場にライブハウス「戦国大統領」が現れた。
さっきまでなんて事ない地下鉄構内だった筈が、一瞬にしてここがどこなのか分からなくなる景色。
踊り場階段にはナウいファッションの女の子達が座り、漁師のような首と丸太のような腕に刺青をギチギチに刺し込んだ男達の体、体、体。
会場から漏れ聞こえる、およそ駅とは思えないギンギンの超ハードコア音楽。
ナードコアもやし野郎が久々に良い体験をしている。
お金を払いドアをくぐるとすぐ、会議室にあるような長机に物販が置かれており、
「盗人には死を」
と手書きで書かれた物販にゼロ距離で呂布カルマさんが座ってCDを売っている。
「」
漫画のように失語した。
模範的なファンらしく驚くも、耳をつんざくハードコア。
空中に浮かんだ無言のフキダシは手塚漫画みたいに彼方へ飛んでいった。
パンパンのフロアをイケイケもイケイケのお兄ちゃんお姉ちゃんが刺青を揺らして所狭しと歩き、固まった自分を押しのけ、フロアの熱を、蒸気を、体から発して良い顔をしている。
祭の提灯がぶら下がるオレンジ色で賑やかな店内のテンションとは別方向を向いた無言の呂布カルマさんを見て、所在無い自分が一気にマイノリティで無くなった気がした。
PCモニターで見たまんまのミュージシャンをあまりジロジロ見るのもアレで、いそいそバーカウンターへ。
早く酔ってしまおう。
一度呂布カルマさんを忘れて奥に進もうとすると、奥と思っていた反対側から倍の音量で大爆音のノイズが溢れ出た。
どうやら後ろと思っていた方がステージに繋がる二重扉だったようだ。
いちいち慣れないが前進。
後ろの熱狂を気にせずDJがハードなミニマルミュージック、ロック、そしてハードコアをオンエア。
針飛びを起こしたDJにヤジが飛ぶ 。
うるせーと言って、また針が飛ぶ
「ゲハハ!」「辞めてまえ!」と笑う体育会系の音声。
健全な光景がある。
言葉が要らない。
室内は十分に明るく、iPhoneの液晶も1番暗い状態でちょうどよかった。
やっと居場所を見つけてDJフロアの灰皿付近に腰を据える。
目の前では若者がDJの音楽に合わせてフリースタイル。
今日はMCバトルもあるらしい。
しばらくDJの音楽に身を委ね、頭を振って酔っ払い始めた頃、「お待たせしましたー呂布カルマのライブが始まりまーす」のアナウンス。
ワクワクでフロアに向かうと、こんな光景はいつぶりだろうか。
二重扉が閉められない程の人が占拠していた。
元々熱気に満ちた室内をさらに二酸化炭素が埋め尽くす。
既に
まるで鳥獣戯画
人間動物園
おかしなことは何も無いでしょ
明日があるならくれば良いし
無いなら無いで今楽しむだけ
重たい瞼無理に開かず
足は足で行きたいところへ
軽くぶつかるジェントルメン
アンド レイディース
高らかに叫ぶ一代の脱線
人と違う人はクッキリ見える
同じ距離で見ても全く違う
不思議な感覚で当たり前
キャラが立つか服が派手なだけ
いつでも自分なりで見えるものがある。
ゆっくりでも早くても違うもんは違う。
良いも悪いも最初から無く、白か黒かどうかならただの評価。
一発の衝撃で後を引く。
強がりはいつまでもしらばっくれる。
通信規制のかかったTwitterみたいに誰の主張も見えはしない。
呂布カルマさんと同門レーベルの「王様ハろばノ耳」の演奏を聞いて物販へ。
未だけたたましい店内で呂布カルマさんに新曲が良かったことなど声を交わす。
持っていない2枚目と3枚目にリリースされたアルバムのどちらを買おうか迷っている事を伝えると、「他は持ってるんですよね?じゃあ続きで3枚目どうすか?」と言われ素直に購入。
MCバトルを待たず、そのまま踵を返して店を出た。
恐ろしく静かな地下鉄構内に耳がキーンと響いている。
余韻無く、とにかく脱力している。
また電車を乗り間違えて一駅先の知らない駅のホームに立っている。
あんまり駅が静かで、高校一年生の秋に初めて行ったクラブからの帰り道を思い出している。