胡蝶の夢
父親が死んだ夢を見た。
古来より夢占いの世界では、夢の中で見る両親の死は吉夢とされており、「精神的な自立」「実際的な自立」を現す夢だと言われている。またはその願望。
33歳のオッサンもやっとこ自立の兆しが見えたようで赤飯でも炊こうと思い立つが、貰い物の炊飯器はまだ一度も起動した事がない。
使い方を教えてもらったけど、もう何1つ覚えてない。
赤飯も嫌いだ。
赤飯を諦め布団の中でゴソゴソ夢の内容を反芻する。おそらく宇宙一無駄な時間だろう。
夢の中で対面した父親は首から上だけになっていた。
どう考えても吉夢とは言い難い夢だった。
あまりに突飛な物語の始まりに逆に(?)冷静だったことを覚えている。
メキシコのギャングに惨殺された変死体のようになった父親。
顔だけになった父親は白い布のような物にくるまれ、喪服の人たちが集まる葬儀場の端の方に転がされていた。
葬儀場にやって来た私に「確認してほしい」と、黒いスーツに白い手袋をした葬儀場スタッフらしき人が軽くなった父親をヒョイと持ち上げ、「なんでも鑑定団」で鑑定士が壺でも眺めるように父親の首から上をクルクル回しながら私に見せる。
スタッフらしき人は私に「顔に青い液体がかけられているんですよ」と言った。
持ち上げられて、寝ているような父親の顔を注意深く見ると、拭き取られることもなく薄っすら青い液体でできたシミが確認できる。
「ゲータレードだと思うんです」
スタッフらしき人は真面目な顔をしている。
「それで、首から下はどこにいったんですか?」
私も妙に落ち着いている。
スタッフらしき人は「さぁ?」と首をかしげている。
よく考えなくても葬儀場の人が知ってることではない。
「そうですか・・」と答えると、スタッフらしき人は神妙な顔つきになり、父親の顔面を丁重に布にくるんで床に置いた。
転がる生首を見ながら笑いもしなかった。
とても吉夢とは思えない。
前に見た動画で脳機能学者さんが「夢は記憶の再合成」だと明快な説明をしていた。
今まで見てきたもの、何処かで聞こえてきた言葉なんかがハチャメチャに合体して夢の中に現れるのだという。
ようは吉夢も悪夢も無いという話で、今日見た夢は、なんか嫌な夢でしかない。
私は「フレディvsジェイソン」を見て一週間は夜トイレに行けなくなるようなホラー嫌い、生粋の怖がりなんだけど、「記憶の再合成」と言われると、先に話したメキシコギャングの処刑画像は見た事がある。
ゲータレードは飲んだ事がないが、tha blue herbのboss the mcさんがCMに起用されていたのを覚えている。
布団の中で合点をすり合わせて気が済んだのでモゾモゾ起きだす。
変な夢のせいでクサクサするので農道に太陽光を浴びに出かける。
帰り道に立ち寄ったスーパーで「母親に会いそうな気がする」と直感が働く。
まんまと母親が「久しぶりやんけ」という顔で待ち受けるように立っていた。